ツグミの鳴き声完全解説!冬に鳴かない理由と春のさえずり聞き分け方
冬の公園や河川敷を歩いていると、芝生の上をリズミカルに跳ね歩き、胸を張ってピタッと静止する鳥を見かける機会が増えます。冬鳥の代表格として親しまれるツグミ(鶫)です。しかし、バードウォッチング愛好家や自然観察者の間で、ツグミは「姿は頻繁に見かけるのに、冬の間はほとんど声を出さない不思議な鳥」として知られています。
時折響く「クィックィッ」「ツィー」という控えめな声の正体は何なのか、なぜ日本に滞在している冬の時期には派手に歌わないのか。古くから「口を噤む(つぐむ)」が名前の由来と語り継がれてきた背景から、春の北帰行直前にだけ披露される幻の美声、さらにはヒヨドリやシロハラ、夜鳴きで有名なトラツグミとの聞き分け方まで、最新の生態観察データを交えて徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:冬のツグミが発するのは繁殖のための「さえずり」ではなく、仲間との合図や警戒を目的とした「地鳴き(クィックィッ/ツィー)」が中心である。
- 要点2:「口を噤む」が語源とされる通り、越冬期の日本国内では無駄なエネルギー消費と天敵からの捕捉を防ぐため、繁殖期のような大声で歌うことはない。
- 要点3:3月下旬から4月の渡り直前には「ぐぜり」と呼ばれる練習鳴きや美しいさえずりが日本でも限定的に観察でき、類似種のシロハラやヒヨドリとは音色とリズムで明確に識別可能。
【現場検証】「クィックィッ」と鳴くツグミの鳴き声|地鳴きとさえずりの決定的な違い
ツグミの声を正確に理解するうえで不可欠なのが、鳥類における「地鳴き(コール)」と「さえずり(ソング)」の機能的な違いです。多くの人が「鳥の鳴き声」と一括りに捉えがちですが、発声の動機と音の構成はまったく異なります。
日本野鳥の会などのフィールド記録によると、10月下旬から3月上旬にかけて日本全国の平野部や都市公園で耳にするツグミの声は、ほぼ100%が地鳴きです。代表的な音声パターンには次の2種類が存在します。
1つ目は、地表で採餌している際や低空を飛翔するときに発する「クィックィッ」「クックッ」という短く硬い声です。舌を弾くようなこの短い声は、周囲の同種個体に適度な距離感を知らせるコンタクトコール(連絡音)や、天敵への軽い警戒音として機能しています。
2つ目は、上空を移動中や樹上に飛び上がった際に発する「ツィーー」「ジィーー」という細く鋭い金属音のような鼻にかかった声です。この高周波の鳴き声は遠くまで届きやすく、群れが分散して移動する際の合図として多用されます。
一方で、繁殖期にオスが縄張りを主張しメスを惹きつけるための「さえずり」は、まったく異なる表情を見せます。鈴を転がすような澄んだ笛の音と、複雑なトリルが組み合わさったメロディアスで美しい美声であり、冬の控えめな地鳴きからは想像もつかないほど華やかです。

なぜ冬は静かなのか?「口を噤む(つぐむ)」の語源と鳥類行動学の真相
古来、日本の古典文学や民俗伝承において、ツグミは「冬になると口を閉ざして鳴かなくなる鳥」として描かれてきました。平安時代の歌学書や江戸時代前期の本草書『本朝食鑑』などの文献資料にも、鳴くことをやめる様を表す動詞「噤む(つぐむ)」が転じて「ツグミ」という鳥名になったという説が記録されています。
現代の鳥類行動学とバイオロギングによる追跡調査から、この伝承には極めて合理的な生物学的理由が存在することが判明しています。
ツグミはシベリア南部から極東ロシア、中国北東部などで初夏に繁殖し、秋になると越冬のために日本列島へと数千キロメートルを渡ってくる「冬鳥」です。繁殖地ではつがいで広大な縄張りを形成し、激しくさえずり合いますが、日本に滞在する冬の間は繁殖活動を一切行いません。
厳しい寒さに耐えながら限られた木の実(ピラカンサ、ナンテン、センダンなど)やミミズ、昆虫の幼虫を探す越冬期において、大声でさえずる行為は貴重な体力を激しく消耗させるだけでなく、ハイタカやオオタカ、モズなどの天敵に自らの居場所を暴露する致命的なリスクを伴います。
つまり、冬のツグミが静かに過ごすのは「鳴く能力がない」のではなく、生き残るためのエネルギー最適化戦略として発声を最小限に抑えている結果です。先人たちが観察した「口を噤む鳥」という描写は、鳥類の適応戦略の核心を突いた的確な観察眼の産物でした。
【音と姿の比較】ヒヨドリ・シロハラ・トラツグミとの聞き分け完全ガイド
野鳥観察の現場では、「ツグミに似た声が聞こえたが、別の鳥だった」という誤認が頻発します。特に同じヒタキ科ツグミ属のシロハラやアカハラ、日常的によく見かけるヒヨドリ、そして夜間に独特の鳴き声を響かせるトラツグミは混同されやすい代表格です。
各鳥類の鳴き声・生態データ・識別ポイントを比較表にまとめました。
| 鳥類名 | 主な鳴き声の特徴(地鳴き/さえずり) | 観察時期と生息環境 | 聞き分けと観察の決定打 |
|---|---|---|---|
| ツグミ (冬鳥) | 「クィックィッ」「ツィー」 春先に稀に「キョロロン、ピーツィー」 | 10月下旬〜4月中旬 開放的な芝生、公園、農耕地 | 開けた芝生を歩き、胸を張って静止する姿勢。声は短く控えめ。 |
| シロハラ (冬鳥) | 「キョキョッ」「ツィー」 飛び立ち時に「ピョピョピョッ」 | 11月〜4月上旬 薄暗い林床、茂みの落ち葉の下 | ツグミより声が太く硬質。開けた場所には出ず、落ち葉を派手にひっくり返す。 |
| ヒヨドリ (留鳥/漂鳥) | 「ピーヨ!」「ヒーヨ!」 非常に甲高く耳をつんざく大音量 | 通年(年中観察可能) 市街地、庭木、森林の樹上 | 一年中うるさいほど大きな金属的な金切り声。波状飛行(上下に波打つ飛び方)。 |
| トラツグミ (留鳥/漂鳥) | 「ヒィーー」「ヒョォーー」 夜間に響く笛のような寂寥感ある単音 | 通年(夜間中心) 深山、うっそうとした社寺林 | 夜中から未明に鳴く。古来「鵺(ぬえ)」の鳴き声と恐れられた怪異の正体。 |
シロハラとの現場での聞き分けテクニック
ツグミと同じヒタキ科ツグミ属に属するシロハラは、越冬環境と鳴き声が一部重複します。ただし、シロハラは警戒心が非常に強く、開けた芝生に出てくることは稀で、大抵は薄暗い雑木林の茂みの中に潜んでいます。
飛翔時や警戒時にシロハラが発する「キョッキョッ」という音は、ツグミの「クィックィッ」よりも音が太く、ドラムのスティックを打ち鳴らしたような乾いた重みがあります。「ガサゴソ」と落ち葉を豪快にめくる音の後に鋭い「キョキョッ」が聞こえたら、シロハラである可能性が極めて高いと判断できます。
トラツグミの夜鳴きと古典怪談「鵺(ぬえ)」の真相
「夜の森から不気味な鳴き声が聞こえる」という相談の多くは、ツグミではなくトラツグミの鳴き声です。体長約30cmとツグミ類の中で最大級のトラツグミは、全身に虎のような黒いウロコ模様を持ち、春から夏にかけての深夜や未明、静まり返った森の中で「ヒィーー……ヒョォーー……」と悲痛な口笛のような声で鳴き続けます。
『平家物語』において、夜な夜な平安京の御所を怯えさせ源頼政に退治された伝説の妖怪「鵺(ぬえ)」の正体こそが、このトラツグミの夜鳴き声です。普通のツグミが夜間に単独でこのような声を張り上げることはありません。

【実態検証】春の渡り直前だけに見せる「ぐぜり」と幻のさえずり
「ツグミの本当の歌声は日本では絶対に聞けないのか」というと、実は例外が存在します。それが、北の繁殖地へ旅立つ直前の3月下旬から4月中旬に観測される「春のぐぜり(サブソング)」です。
SNSやバードウォッチャーの報告コミュニティでも、3月末頃になると「近所の公園のツグミが突然さえずり始めた」「普段と違う美声で歌っている」といった驚きの投稿が相次ぎます。
「ぐぜり」とは、若鳥が成鳥のさえずりを真似して練習したり、越冬を終えたオス個体が日照時間の増加(光周期刺激)によって性ホルモンの分泌を高め、喉の筋肉を慣らすために口ごもるように小さく鳴く現象を指します。
樹上の見通しの良い枝に止まり、喉をわずかに膨らませながら「キュルキュル、ピロピロ、ツィーツィー、ジジッ」と、まるで小さなオーケストラが音合わせをしているかのように複雑なメロディを独り言のように奏でます。運が良ければ、繁殖期さながらの本気モードの「さえずり」を日本国内で耳にすることも可能です。
冬の間は地面ばかりを見ていたツグミが、梢の先端で見事な歌を口ずさみ始めたら、それは彼らがシベリアの原野へと数千キロの旅路に出発するカウントダウンの合図です。
【野鳥観察の現場から】ツグミの生態・特徴と確実に見分けるフィールドテクニック
鳴き声の手がかりと合わせて、ツグミの視覚的・行動的特徴を押さえておくと、フィールドでの識別精度は飛躍的に向上します。
ツグミ(体長約24cm)を肉眼や双眼鏡で捉えた際、最も決定的な視覚特徴は以下の3点です。
- 顔の明瞭な眉斑(びはん):目の上にくっきりと伸びるクリーム色のラインと、喉元の白さ。
- 胸から腹部の黒褐色斑紋:白地に黒や焦げ茶色のウロコ状のまだら模様がびっしりと広がる。
- 赤褐色の翼:畳んだ翼の羽縁に赤みのある茶色が美しく映える。
また、行動パターンにも非常にユニークな習性があります。バードウォッチャーの間で「だるまさんが転んだ走法」と呼ばれる採餌行動です。
地面の上を「トトトッ」と数歩リズミカルに走っては急ブレーキをかけ、胸を突き出してピンと背筋を伸ばし、数秒間完全にフリーズします。この静止の瞬間に、地面の微細な振動や土の中のミミズの動きを目と耳で感知しています。この独特の歩行リズムを見せる鳥がいれば、遠目からでもツグミだと即座に断定できます。

【プロの結論】都市公園と里山で楽しむ野鳥観察の心得と見落としがちな注意点
ツグミの観察や音声の記録を行うにあたり、鳥類生態学の知見に基づく適切なアプローチと、慎重になるべきポイントを整理します。
観察に適したアプローチ(向いている人・おすすめの条件)
- 観察時間帯:早朝(日の出から午前9時前後)。採餌行動が最も活発で、地鳴きの頻度も高くなります。
- 観察場所:芝生広場、刈り取りが終わった冬の田畑、実のついた街路樹周辺。見通しの良い場所を好みます。
- 観察距離の保持:ツグミは個体ごとに「警戒距離(およそ10〜15メートル)」を持っています。それ以上不用意に近づかず、双眼鏡(8〜10倍推奨)や望遠レンズを活用する姿勢が重要です。
避けるべきNG行為(慎重になるべき行動)
- 音源の再生(プレイバック法)の禁止:スマートフォンのアプリ等でツグミや天敵の音声をスピーカーから流し、おびき寄せる行為は厳禁です。越冬中の貴重な体力を無駄に消耗させ、縄張りを混乱させる深刻なストレスになります。
- 追い回し・採餌の妨害:冬のツグミにとって、日中の採餌活動は夜間の厳しい冷え込みを生き延びるための死活問題です。飛び去るまで追い詰める行為は慎まなければなりません。
【ツグミの鳴き声】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ツグミが庭にやってきて「クィックィッ」と鳴くのは威嚇ですか?
A1:威嚇というよりも、軽い警戒や周囲の仲間への合図(地鳴き)です。人間や猫が近づいた際、「危険が迫っている」と同種に知らせるために短く発声して飛び立つケースが多く見られます。
Q2:ツグミの綺麗なさえずりは日本国内では全く聞けませんか?
A2:厳冬期(12月〜2月)に聞くことは極めて困難ですが、北帰行直前の3月下旬から4月中旬にかけては、日本国内の公園でも「ぐぜり(練習鳴き)」や本格的なさえずりを耳にするチャンスがあります。朝の雑木林の高い梢に注目してください。
Q3:夜中に「ヒョーー、ヒョーー」と笛のような声が聞こえるのはツグミですか?
A3:それはツグミではなく、近縁種のトラツグミです。トラツグミは夜行性傾向があり、深夜から未明の薄暗い森林で口笛のような一本調子の不気味な声で鳴きます。妖怪「鵺」の伝説の正体としても有名です。
Q4:ツグミとヒヨドリ、ムクドリの鳴き声はどう違いますか?
A4:ヒヨドリは「ピーヨ!ピーヨ!」と耳をつんざくような大声で鳴き、ムクドリは「ギュルギュル」「ギャーギャー」と濁った騒がしい声で大群をなします。ツグミは単独行動が多く、「クィックィッ」「ツィー」と非常に控えめで短い声を出すため、音量と音色で容易に判別できます。
まとめ:季節の移ろいを告げるツグミの声を深く楽しむために
冬の訪れとともに大陸から海を越えて渡ってきて、草地を跳ね歩くツグミ。彼らが冬のあいだ「口を噤む」のは、過酷な自然環境を生き抜くための無駄のない生存戦略そのものでした。
晩秋から冬には控えめな「クィックィッ」という地鳴きに耳を傾け、春先には旅立ちを前にした美しい「ぐぜり」やさえずりを探す——。鳴き声の変化を通じて季節の移ろいを感じ取ることこそ、身近な野鳥観察の最大の醍醐味です。身近な公園や緑地を訪れた際は、ぜひ立ち止まって耳を澄ませ、ツグミたちの発する繊細なシグナルを受け取ってみてください。 (出典: ツグミ の 鳴き声(Yahoo!ニュース))